子ども向け認知行動療法の難しさ・前編
家庭教育の専門家・公認心理師のまいどん先生です。このブログを読んでみようかなと思っていただきありがとうございます 。
今回は、子ども向け認知行動療法をテーマに記事を書いてみたいと思います。
とても長くなりそうなので、2回にわけて解説してみます。
認知行動療法とは
人との関わりや、目の前で起きたことに対し、楽観的に捉える人もいれば悲観的に捉える人もいます。
そして、その日あったことのことについて、楽しさや嬉しさのほうを多く記憶したり、恐怖や不安を多く記憶したり、その理由は相手のせいだと考えたり、自分のせいだと考えたり、そういうこともあると捉えたり、そうに違いないと判断したり…
このようなことを『認知』と呼びます。
そして、ざっくりといえば、
「事実と大きくかけ離れた認知の仕方が癖になっていると、毎日イライラしたり、不安が膨らんだり、悲しくなったりして、生きるのがつらくなってしまいやすいので、そんな認知を変えていきませんか?」
…というのが認知行動療法です。
認知行動療法は、うつ病をはじめとする様々な精神疾患に対して、科学的根拠に基づいて有効性が報告されていて、自殺しようとする行動を半分程度に減少させるともいわれます。
そんな現代の認知行動療法というのは、過去の心理研究者たちの中でも思考や認知に焦点をあてた心理療法の総称です。
色んな心理研究者などの考えをミックスしてできているもので、「仏教」や「ストア派」などの哲学からの影響も受けているとも言われています。
ですから、認知行動療法を調べた人の中には、「なんか仏教っぽい考えだな」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
「怒らないことによって怒りに打ち勝て」
「すべてのものごとは、その人の心によって成り立つ」
「過去を追ってはならない。未来を期待してはならない。今日、まさになすべきことを熱心になせ」
「ただ、自分がやったこと、やらなかったことだけを見つめなさい」
…これらはブッダが説いた言葉ですが、人生を切り開く上で、人に振り回されずに自分をしっかり持ち、歩いていきましょうという認知行動療法的な考えともいえます。
ストア派の哲学は、自らに降りかかる苦難などの運命をいかに克服してゆくかを説いていて、それができる人は判断の誤りから生まれる破壊的な衝動などに苛まされることはないといいます。
こんなふうに、認知行動療法は、本人の思考・認知の誤りを修正し、自らに降りかかる苦難なども克服してゆく力を獲得するという目的を持ちます。
ここまでの説明でもおわかりのように、ちょっと難しい取り組みですよね。
認知行動療法で求められることとは
これをやっていこうと思ったときに、以下のようなことが求められます。
・心理的な問題などに対する知識や情報を学ぶこと
・思考のモニタリングをすること ・認知の修正を試みること |
思考のモニタリングを~…と言われても、『今日1日何を考えていましたか』と聞かれて正確にすべてを言葉にするのは困難ですよね。
私たちは日々3万5千回ほどの判断をしているといいます。
トイレにいこうとか、あれ食べようとか、そういう判断をたくさんしていて、その判断の前段階ではさらに「(お出かけ中)あのスーパーのトイレが綺麗だからあそこがいいだろうか」「ダイエットしているのに甘い物が食べたいわ」とか、細かい思考をしています。
これを完全にモニタリングしろと言われてもめちゃくちゃ難しいですよね。
日常の何気ない判断レベルからさらに一歩踏み込み、人との関わりや目の前の出来事に対する認知の仕方が偏ってるとか誤りがあるとかを理解して変えていこうというのも、相当意志がつよくないと続きません。
『不安を感じやすい人は不安だと思ってしまうまでの考え方の誤りや偏りがある。 だからそのことにまず気づき、認知を再構築し、適切な考え方を習得していきましょう。 自分の感情や反応のモニタリングをして、感情をコントロールしましょう。 自分の行動のモニタリングをして、行動を変化させるための改善目標をたて、報酬などを活用して適切な行動を習得してゆきましょう。 観察可能な思考に焦点を向けていきましょう。』 それが認知行動療法です。
子ども向け認知行動療法について
ここまで解説したように、大人でも難しそうな(難しい)認知行動療法ですが、『子ども向け』のものもあります。
大人向けに出来た療法を、子どもにも活用してみようというもので、日本でも取り入れている心理職の方はとっても多いですし、私もそのひとりです。
ですが、親御さんには活用できても、子どもに適用するのは難しいなと日々感じています。
なぜなら、この認知行動療法は欧米的考えが強いからです。
思考や認知に焦点をあてたこの心理療法のベースを考えた心理研究者たちの多くは、欧米の研究者です。
「自分で自分の問題について責任を取ってコントロールしなさい」という個人主義の教育を子どもの頃から受けてきているのが欧米です。
自我や個人の強さは前提とされず、協調性を重視する教育を受けるのが日本です。
「困ったときはお互い様」であり、「周囲の助けがあるから自分がいる」という考えを持ち、相手を尊重します。
「いい子」でいようとしたりして周囲に合わせがちになるのが良くも悪くも日本人の特徴でもあります。
そもそも子ども時代に受ける教育が欧米と日本とでは大きく異なる上に、現在進行形で成長過程にある子どもへの認知行動療法の活用はさらに困難さがあるわけです。
さらに、大人なら自分をコントロール(難しいですが)しやすく、『変わりたい』という動機付けもあるからなんとか取り組めるものの、子どもの場合、
・認知のモニタリングが難しい
・問題意識と解決への動機付けが弱い ・環境(家庭と学校)と複雑に絡み合っている |
ということがあります。
子どもがみる世界は自分中心で、相手のことを考えたり、自分の行動が相手に影響を与えるということを十分に理解して先々を予測する力というのは高学年くらいになってようやく身についていくものであって、さらに語彙力の問題もあり、心の中のモヤモヤを適切に相手に伝達することを小学校低・中学年に求めるのはハードルが高すぎます。
何度もいいますが、子どもは自分本位であって当たり前で、心の中のことを適切に言語化することができるようになるのは早くて高学年くらいになってからの話です。
そのような子どもたちに、「自分の認知をモニタリングしましょう」と言っても、よちよち歩きの子に走れと言ってるのと同じくらい難しいんです。
それを親子で取り組もうとした時、小・中学年の子どもは自分の気持ちをうまく言語化できないので、親が子どもの代わりに「あなたは今こういう気持ちなんじゃない?」「あなたはいつもこういうことを悩んでいるのよね?」と代弁しようとしたり、「この子はこう考えていそう」と親の想像の範囲で子どもが感じていそうな感情をあてがおうとしがちです。
でも、このようにして認知行動療法の認知のモニタリングを親子でしようとしても、親による代弁や、親の想像で「こう考えているかも」というのをあてがうやり方ではそもそも子どもの心の中を正しく把握できていないまま、認知を変えようと取組を進めてしまうことにもなり得ます。
その状態で無理に子ども向け認知行動療法を実行することで、どんどん状況がややこしくなっていった…どこから手をつけたらいいかわからない。お手上げ…と、複雑化した状態でMIKURU・MIRUに相談をされる方は珍しくはありません。
前編まとめ
今回は理屈が中心になりました。
・認知行動療法には、本人の思考・認知の誤りを修正し、自らに降りかかる苦難なども克服してゆく力を獲得するという目的がある
・子どもの場合「認知のモニタリングが難しい」「問題意識と解決への動機付けが弱い」「環境(家庭と学校)と複雑に絡み合っている」ことがほとんど
…ということを書かせていただきました。
子どもは環境(家庭や学校)からの影響を大きく受け、複雑に絡み合っているので、まずはその影響を受けている環境そのものを正しくつかみ、必要であれば変化させていくことが大切です。環境を変えないで、観察可能な行動から判断して対策をとっても、結局は似たような問題を抱え続けてしまいやすいんです。
大人の発言やその場の空気感から多くを学びとれる多感な時期の子どもにとっての「環境」が変わらないことには、いくら「行動を変えなさい」といわれても、なかなかそうはできないものです。
ですので、私は、子どもが最も子どものうちに長く関わる親御さん(家族)とお子さんとの関係性に注目し、親子のやりとりを分析し、親子会話を変えていくという「環境」へのアプローチを大切にしています。
親子の関わりが詳細にわからないのに、「あなたのお子さんは怖がり。嫌なことから逃げてばかりです。それを乗り越えさせなければならない。叱ってでも学校に連れて行くべき」「学校に行きたくないというお子さんの発言はただの甘えです。そんなこと社会では通用しないって言いましょう」…なんていえません。
そんなことをして無理に復学が出来ても、お子さんの環境は変わらないまま。
お子さんだけに変化しろと厳しく言って、我慢させ、耐えさせているだけで、どんどん心がすり減って、また学校に行けなくなる。
しかも今度は精神的にとても不安定になって…。
そんなことがあり得るからです。
「ひとりで登校をする」という復学に目を向けすぎているご家庭の場合、お子さんに「学校に行きなさい」と無理に連れていくことはしないにしても、本や動画などを真似て子ども向け認知行動療法を取り組んで本人の意志による復学を目指そうとしていることが多いです。
しかしこれもまた、環境からの影響を大きく受け、複雑に絡み合っているのに、影響を受けている環境そのものを正しくつかめず、環境を変えないで、観察可能な行動から判断して対策をしているだけで、
「環境は変わりません。変わるべきはあなたです。あなたの認知は歪んでいておかしいです。矯正しましょう」
といっているのと同じで、しかも本人は自分の気持ちをうまく言語化できない。認知が歪んでいると言われてそうなんだとは思いながらも、それに対して問題意識を十分に持てていないまま、なんだかよくわからない認知行動療法の手法を実践させられてしまっている…ということが起きます。
子どもは親の言うことを聞いて認知行動療法を実践しようとするものの、それを取り組んだからといって一向に子どもに自信はつかないし、やってもやっても成果がみられないし、親は「こんなにやってるのに何で変わらない?」と焦って、つい子どもにきつい言葉を投げかけてしまうし、そんなことが繰り返されて子どもはますます自信を失う…
そして親子の関係性がどんどん悪くなり、子どもは精神的に不安定に…
そんなことは珍しくありません。
次回は、子ども向け認知行動療法を取り入れて上手くいかなかったとお話してくださったケースをご紹介したいと思います。
それでは、今回はこのへんで終わりたいとおもいます。
また次回のブログにてお会いしましょう 🙂
まいどん先生(公認心理師)
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