母子登校(付き添い登校)を乗り越えるための方法
ブログをお読みいただきありがとうございます。公認心理師の山下です。
今回は、『母子登校乗り越えのために支援者(特別支援学級の教師なども含む)が提案しがち』な方法をご紹介したいと思います。
今回の内容は、すべての説明において極力中立な立場で解説します。
偏った視点でどの方法が素晴らしいともいいませんし、あかんともいいません。
あくまでも、こういう方法・考え方があるということを書かせていただくのが目的であり、「あなたの家でこれをやればうまくいく」というものではないので、そのあたりをご理解いただいたうえで読み進めていただけますと幸いです。
母子登校(付き添い登校)を乗り越えるためにはどんな選択肢があるのか
これですべて…ではないのですが、比較的多く取り入れておられるであろう方法は以下の通りです。
・行動主義:トークンエコノミー法①:ひとりでいけたらシール一枚。何枚かたまったらご褒美を与える
・行動主義:トークンエコノミー法②:時間までに準備できたらとか、下駄箱でわかれられたらなど複数の行動にポイントをつける。目標のポイントまでたまればご褒美を与える ・父性対応法:原理原則に沿って、学校とはひとりで行くべき場所なのだと父親が説明。「母親と行くことは本来認められている登校の仕方ではない」などと伝える ・母子登校スタンダード化:ひとりで行かせることに躍起にならず、母子登校をスタンダードにする。こどもの成長とともにそのうちひとりで行くようになるまで母子登校を続ける ・自立メソッド:こどもの自立を促す(子どもの母子登校は過保護過干渉の親の関わりにより周囲の精神的・身体的自立に追いついていないという視点論) ・認知行動療法やSSTや遊戯療法:児童精神科やことばの教室や市の教育センター等でケアを受け子どもの心の安定をめざす ・お休みチケット:チケット活用して休み休みでも行けたらOKとする ・臨機応変対応:行くか行かないかはその日の朝子どもに決めさせる。子どもが調子がよさそうな時に親から「今日はここまでね」と声をかけるなど ・先生に無理に引き離してもらう:保育園や幼稚園のままの戦法 ・母以外の依存先を作る:特別支援の先生に間に入ってもらい、学校内での母親以外のサポート役になってもらう |
以下、ひとつずつ解説をしていきます。
行動主義的アプローチ
・トークンエコノミー法①→ひとりでいけたらシール一枚。何枚かたまったらご褒美
・トークンエコノミー法②→時間までに準備できたらとか、下駄箱でわかれられたらなど複数の行動にポイントをつける。何ポイントたまればご褒美
①は母子登校でも比較的軽度の時に有効であることが多いです。
日によってはひとりで行けるけど、そうじゃないときもある。校門や教室の前まで送り届けたらお別れが可能というようなケースでは、「一人で行けたらシール1枚」とし、例えばそれが10枚たまれば「遠くの公園に連れて行ってもらえる(夏休みにプールに連れて行ってもらえる)」などのご褒美設定をする方法です。
②は↑より詳細で、母子登校でも離れることに困難さがある場合に有効であることがあります。
行動1つ1つにポイントを設定しておき、その行動ができればポイントをつけます。
いくつかの行動目標を作ることになるので、「1日の内でマックス10ポイントたまる」みたいなことが起こります。
そして、100ポイントで消しゴム。200ポイントでハッピーセット。…みたいに、ポイントに応じて景品をゲットできる方法です。
行動主義の難点:
子どもに母子登校を乗り越えたい意欲がなければある一定のところまではうまくいっても乗り越えたくないところから足踏みが続いてしまいがち。
ご褒美の与えすぎや少なすぎや目標が遠すぎて、子どもが飽きてしまうことも。
今日は頑張れないと言った子どもに「それじゃご褒美がもらえないよ!いいのね?!」と、頑張らないと罰をくらうことになるというある種の脅しを親がしてしまい、頑張れば褒美、頑張らなければ罰という関わりになり、結果子どもは何のためにひとりで行くと意味が見いだせなくなってしまいやすい。
👇トークンエコノミー法について詳しくはこちらをご覧ください。
父性対応法
原理原則に沿って、「学校とはひとりで行くべき場所なのだ」と父親が説明。
「母親と行くことは本来認められている登校の仕方ではない」などと伝える方法。
「父性と母性」という考えがあります。
社会規範を教えようとする父と、情緒を支える母という2つの役割を作り、父と母とで分担をしてそれぞれの役割を担う考え方です。
その中でも、母子登校というものを乗り越えていこうとしたときに、「背中を押したほうがいいのでは」「甘えなのでは」とおもわれる場合にこの方法が有効であることがあります。
父性対応法の難点:
父親がある程度子どもからみて怖い存在でなければうまくいかない。昨今の父親は育児参加をしてきていることもあり、子どもには叱ったり押し付けたりせずとも、その時がくればちゃんと自分で考えて行動できる力があるのだと考える人が増えた印象があるため、「優しく寄り添ってくれるお父さん」と思っている父親から急に叱られることは子どもを混乱させることも。
また、たとえ父親が子どもにとって怖い存在であっても抑圧させるかかわりともいえるため、反発心を持たせることは承知の上での関わらなければならないし、場合によっては親子関係に溝ができたり、子どもに心の傷を負わせてしまうこともあり得る。
その反発心を子に持たせたままその後も子育ては続くので、父親=絶対的な存在とまではいかないが、最後まで一貫性を貫いて家族の中のお手本であり、法であろうとする努力が必要になることもある。
母子登校スタンダード化
ひとりで行かせることに躍起にならず、母子登校をスタンダードにする。
こどもの成長とともにそのうちひとりで行くようになるまで母子登校を続ける。
母子登校スタンダード化の難点:
長期化しやすい。
母子登校が子どもにとって当たり前になり、母親についてきてもらうことに違和感を持たなくなることがある。
母親が疲弊して途中から連れて行くことが困難になりやすい。(=不登校になることも多い)
自立メソッド
自立メソッド的なものでこどもの自立を促す。
子どもの母子登校は過保護過干渉の親の関わりにより周囲の精神的・身体的自立に追いついていないからという理屈。
自立メソッドの難点:
母子登校を乗り越えた後の親子の繊細なやりとりまでもカバーしているものとはいえない。
あくまでもメソッドであり、マニュアル化してしまわないように気をつける必要がある。
会話がパターン化してしまうと、親子の心の距離が遠くなってしまうこともある。
マニュアル外のことが起きると対応が難しくなる。親の子へのかかわりが「あっているか」「あっていないか」という視点になりやすく、「失敗してはいけない」という恐怖心を強く持ち続ける子育てになることも。
認知行動療法やSSTや遊戯療法
児童精神科やことばの教室や市の教育センター等でケアを受け子どもの心の安定をめざす
最近は「子ども向け認知行動療法」といった書籍などもでていますね。親子で試してみていますというお声も多く聞くようになりました。
認知行動療法やSSTや遊戯療法の難点:
子どもに無理をさせない方法である一方、わかりやすく解説されている本もあり、親子で取り組みやすいものともいえるが、よく理解しないまますすめていくことで子どもの心に乖離がおきないかが懸念される。
👇認知行動療法について詳しくはこちらをご覧ください。
その他
・お休みチケット:チケット活用して休み休みでも行けたらOKとする
たとえば、月に1枚チケットを発行して「これを利用するときはリフレッシュ休暇を許可する。何をしてもよい。堂々と学校をお休みし、翌日以降からまた元気に頑張れるためのものである」とする。
しんどくなっていっぱいいっぱいになるまえにチケットをうまく活用し、継続登校をしやすくする。大人でいう有給休暇と同じような考え。
難点:
望む時にやすめる権利はあっていいものの、使用のしかたによっては「恐怖条件付け」が起きてしまい、本人にとっての恐怖や不安を強化させてしまうことがある。さらに、お子さんによっては怠惰心を強化させてしまうことも。
👇詳しくはこちらをご覧ください。
・臨機応変対応:行くか行かないかはその日の朝子どもに決めさせる
(子どもが調子がよさそうな時に親から「今日はここまでね」と声をかけるなど)
その日の様子に応じて臨機応変に対応をすることで、親子ともに「絶対ひとりで行かなければ」あるいは「絶対休んではいけない」のようなプレッシャーを感じなくてよくなるともいえる。
難点:
その日その日で対応が変わることで親子ともに混乱し、沼にはまって抜け出せなくなったり、長期化しやすい。
親からすれば突然ということはないのだが、子どもからすれば自分がここまでは母親がついてきてくれるだろうと考えていたところ、唐突・突然「ここからはひとりで」と言われて突き放されてしまっているような不安や恐怖を感じさせやすい。
いきなり嫌なこと(ままはここからはついていかない など)を言ってきて自分のことなんて嫌いなのだという錯覚をさせかねない。
・先生に無理に引き離してもらう:保育園や幼稚園のままの戦法
先生に間に入ってもらい、お母さんが離れやすくなるように学校と連携をとる。
難点:
学校が人手不足だとできない。無理に引き離してもらうことがあるため、子どもとの信頼関係に溝ができることも。
保育園や幼稚園はその後の気持ちの切り替えポイントがあった。楽しい遊びや先生のおひざにのせてもらうなど、比較的子どもにとって安心できる環境であった。しかし学校は座学や集団行動を学ぶ場であることから、切り替えポイントがないので、無理やり引き離されて嫌な授業を受けさせられるというながれになりやすく、学校という場そのものが無理だと感じさせやすい
・母以外の依存先を作る
特別支援の先生などに間に入ってもらい、学校内での母親以外のサポート役になってもらう
難点:
人員不足の学校では厳しい。
支援級に所属していないと常にそばにいてもらうことは難しい。通級指導を導入していない学校の場合十分なサポートを受けられない
まとめ
今回は、比較的多くのケースで取り入れられている方法をご紹介しました。
どのやり方にもメリットデメリットがありますし、お子さんの様子や親御さんの性格や学校と連携が取れるか取れないかなど、ご家庭によってどのような取り組み方が望ましいかという点のご判断は各ご家庭にあると思ってお読みいただますと幸いです。
ただ、これらはただの手段でしかなく、目的は「子どもが安心して過ごせること」「子どもが成長できること」であり、「1日もはやく母子登校を抜け出そう」という目的で進めていくと、後に「学校に行かないあなたを愛せない」となってしまうこともあるので注意が必要です。
学校にひとりで行くというのは手段であり、目的ではない。
何のために一人で行かせたいのか。そもそも学校に行かせる必要があるのか。その子がその子らしく成長するためにどんな環境やかかわりが望ましいのか。
…ということを中心において考えていただくうえで、今回のブログの内容がどなたかのお役にたてれば…と思います。
それでは、今回はこれで終わりたいと思います。
さいごまでお読みいただきありがとうございました。また次回のブログもお読みいただけると嬉しいです!
まいどん先生(公認心理師)
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