「おまえのせいで俺はこんなことになってしまった」中学生男の子の苦しみ:前編

 

「おまえのせいで俺はこんなことになってしまった」中学生男の子の苦しみ:前編

ブログをお読みいただきありがとうございます。公認心理師のまいどん先生です。

今回は、支援を受けられたご家庭の事例紹介です。

「勉強ができる子に育てなければ」というお母さんの強迫観念

親御さんからご相談をいただいたのは中学1年生の男の子のこと。

この子は第一志望の私立中学をめざし、小学校3年生から塾に通いだしました。

お父さんの職業は医者。お母さんは専業主婦で、お母さん曰く「私は勉強に自信がない。教えられない。でも、主人みたいな子に育てなければというプレッシャーがとてつもなく高くあった」ということでした。

お母さんは、「主人は子どもの頃から勉強ができた人。私はそうじゃなかった。この子の成績が悪かったら、それは私の遺伝子を受け継いだことになる」という考えが強く、塾前の予習や塾の宿題に取りかかる時など、勉強をしようとしない子のお尻を必死に叩き、優しくしたり厳しくしたり、物で釣ったりしたこともあったそうです。

お子さんは比較的おとなしく、言い返すこともなく、お母さんの言うとおりにこなすことができていて、お母さんはなんとかして勉強ができる子にしなければと必死でした。
ところが、小6になったあたりから、イライラすることが多くなったり親にキレることが増えたり、急に「死にたい、苦しい、つらい」と言い出すなどの精神的な不安定さが出てきて、学校を休みがちになってしまいます。

それでも塾に行くことと宿題をこなすことだけはなんとか頑張り続けられたため、親御さんは『気分の落ち込みは受験のプレッシャーやストレスからくるもの』と考えていました。

 

入学祝のゲーム

その後なんとか志望校に合格。

入学祝いに、お母さんはお子さんがずっと欲しがっていたゲームをプレゼントしました。

お子さんはずっと、小学生時代友達が休み時間に楽しそうに話すフォートナイトやエイペックスやマインクラフトにあこがれを持っていたと言います。たまにお友達の家に遊びに行くとやらせてもらえるゲーム。

ぼくもほしいと何度かお母さんに言いましたが、「受験が終わるまでだめよ」と返ってくるので、「じゃあ、合格したら買ってよ。絶対だから」と約束をしていたのでした。

『学校の勉強の合間に、息抜きで遊ぶことができればこの子のストレスも緩和されるだろう』とお母さんは思っていたそうです。
ですが、実はお父さんは反対をしていました。

「ゲームを買い与えたら勉強をしなくなるのでは」と思っていたからです。

中学に入学し、このお子さんは宿題の量、授業スピードの早さに驚きました。
周りは秀才ばかりで、部活もし、塾も行き、学校も余裕を持ち通える子ばかり。
しかしこのお子さんは、学校と家との往復で精一杯でした。

帰宅をすると真っ先にゲームをし、22時になってようやく宿題にとりかかり、2時頃就寝し、5時半に起きるというような毎日。

そして迎えた、はじめての中間テスト。
さんざんな結果で、補習を受けなければならなくなりました。

お父さんはそんな息子さんを見て、息子さんの前でお母さんを叱責しました。
『おまえがゲームなんか買うからだ!』と怒鳴りつけ、お母さんも『全部わたしのせいにしないで!あなたは受験勉強に一切関わらなかったくせに!』とお互いを批判しました。
この日息子さんは自室にこもり、夫婦喧嘩がおさまるまで大音量でゲームをしたそう。

 

自分の成績をめぐり夫婦喧嘩が起きた翌日から学校を休みがちに。そして家庭内暴力へ…

そして、その翌日からお子さんは学校を休みがちになりました。
お父さんやお母さんは、毎朝息子さんの布団を剥ぎ、無理矢理起こして着替えさせたり、手を出すこともありましたし、怒鳴ったり、優しくしてみたりと色んな方法で息子さんを学校に行かせようとしました。
息子さんを車に乗せて校舎前まで行けたとしても、息子さんはなかなか車から降りてくれません。
何時間も車の中で降りるのを待つも、諦めてそのまま帰宅する日が増えていきました。

休んだ日はずっとゲームをして過ごします。

ご飯も親御さんと一緒に食べようとしなくなり、すべて自室に持って行くようになってしまいました。
学校を休む日が続き、親御さんも焦りから朝だけでなく夜も『明日は学校に行けよ!』『明日行かなければゲーム取り上げだからな!』と厳しく言いました。

その翌日、息子さんは学校を休んだため、お父さんは仕事用の鞄にゲームを詰め込み出勤しました。
息子さんが起きてきてゲームがないことに気づき、お母さんに『ゲームがない、どこにやった?!』と言います。お母さんは、呆れた顔で『お父さんが持って行ったわよ』と答えると、息子さんはキレてしまいました。
お母さんの背中をグーで何発も殴り、蹴りました。
リビングの机や椅子も倒し色んなものを壁になげつけ穴をあけてしまいます。
お母さんは必死に止めようとしましたが、息子さんはやめてくれません。お母さんは、息子さんの変わりようが怖くなり別の部屋に逃げました。

親御さんの後悔

1時間ほどして暴れる音がなくなり、息子さんは自室にこもった様子だったので、お母さんがリビングに行くと部屋は酷い有様でした。
お母さんは驚きと戸惑いで、その部屋を片づけることが出来ず、お父さんが帰宅した時は息子さんが荒れた後そのままになっていました。
お父さんは、あまりの荒れたリビングを見てギョッとしました。

その後夫婦でなんとかリビングを片付け、話し合った結果、『こんなにも学校に行きたくないというならしばらくそっとしておこう。ゲームも渡そうか。』ということに。

この日以降、息子さんの昼夜逆転生活がはじまりました。

学校を休む日が増えるにつれ、顔は青白くなり、表情がなくなり、髪はボブぐらいの長さにまで伸び、目の焦点があっていないような、力の弱い目つきになってしまいました。お父さんもお母さんも、この様子を見てこれまで『無理矢理勉強をさせ続けてきたこと』『ずっとゲームがしたい、友達と遊びたいと言っていたのに、受験が大事だといって遊ばせてこなかったこと』『家庭の雰囲気がずっとギスギスしていたこと』などを振り返り反省したそうです。

まずは子どもの心の回復が先だと思い、そこからは一切学校に行きなさいと言わないようにし、ゲームも自由に使わせるようにしました。
そこから息子さんは少し穏やかになったものの、親への要求が増えていきます。
『マクドナルド買ってこい』
『新しいソフトを買え』
と言い、要求を飲めないと伝えると、
『おまえたちのせいで俺の人生めちゃくちゃだ!』
『おまえのせいで俺はこんなことになってしまったんだ!』
と暴れてしまったり、『死にたい、生きていても何もいいことがない』と言います。

要求が通れば楽しそうにゲームはするし、動画やアニメを見て笑うこともありますが、要求が通らなければ暴れてしまう。
そんな日が3ヶ月、半年と続きましたが、いっこうに息子さんは学校に行こうとしません。
親御さんは、難関大に行く未来にならなかったとしても、せめて将来は公立や通信制でも何でもよいので高校までは出てほしいと強く願うようになりました。

もう、ヘトヘトです。息子がわからない

もちろん学校には行ってほしいけれども、まずは親と子の間に出来てしまった溝を修復したい。
家族で団欒ができるようなもとの状態に戻りたい。そしてその先に、どんな経路を辿ったとしても、子どもが自立、自律して生きてくれればという想いで私を見つけてくださり、ご相談をいただくという流れになりました。

『ゲームを買い与えたことがきっかけで子どもはおかしくなってしまったのか?』という疑問を持っていたご両親。

しかし、支援を受けて親子会話を変えていったり、親子のこれまでの関係ややりとりを見てみると、決してゲームが理由ではなかったよねということが割と早めに答えとして出ます。

 

お子さんの成績にしか注目できなかったお母さん。

強迫観念的に、「この子も将来は医者に」と必死で、厳しく言って勉強をさせることがこの子のためになるんだと信じていたお母さん。

そんなお母さんとお子さんは、対話をしてこれていませんでした。

お母さんも、お子さんの感情(情緒)に興味を持ってこなかったし、話を聴いてこなかった自覚があったといいます。

お父さんはお仕事で忙しかったのと、奥さんの子育てに口出ししようとすると言い返されてしまうのであきらめて介入するのをやめていた。

親子3人で生活をしているのに、会話という会話がほとんどなかった。

お子さんは、家の中ではほぼ勉強(成績)についてのやりとりしか親御さんとできなかった。

 

自分がお友達のゲームの話を聴いて何を思っていたのか。

休み時間会話に入っていけなくて本を読み続けてきたこと。

その姿に「本好きな子」というイメージを担任や先生に持たれていたけれど、心の中ではずっとさみしくてつらかったこと。

テストで100点を取らないといけないという不安がずっとあったこと。

お父さんと休みの日にでかけたり、お母さんと家でのんびりクッキーを食べたかったこと。テストの成績がだめなときでも、怒らないで「あなたはずっと頑張ってきた。こういう時もあるよね」と励ましてほしかったこと。

こういう、お子さんの気持ちを親御さんは聴こうとしなかった。興味を持てなかった。

お子さんはずっと言いたかったのに、言えなかった。

「いいから勉強をしなさい」と言われるのがわかっていたからです。

 

ずっとずっと、心のなかは寂しさでいっぱいで、ひとりぼっちで、つらかった。

この子が不登校になり、荒れてゲームに依存したのは、家庭でのやりとりが理由だったのではないかということが、親御さんと私とで出した答えでした。

 

長くなるので今回はこれで終わりたいと思います。

さいごまでお読みいただきありがとうございました。また次回のブログもお読みいただけると嬉しいです!

まいどん先生(公認心理師)

 

👇応援よろしくお願いします!!
にほんブログ村 子育てブログ 不登校・ひきこもり育児へ
にほんブログ村


不登校・ひきこもりランキング

👇MIKURU・MIRUの無料の音声配信はこちら

👇Instagramはこちら

-不登校