子ども向け認知行動療法の難しさ・後編

子ども向け認知行動療法の難しさ・後編

前回の続きです。

子ども向け認知行動療法の取組について

親子で認知行動療法を見よう見まねでやろうとしたときに起きやすいこととして、このようなケースをよくお見掛けします。

例えば子どもが、「不安」や「恐怖」を感じて、それが理由でひとりで学校に行けない場合、「学校に行かない」あるは「ママと学校に行く」といった、みんなとは違う行動をとってしまう自分(ある意味では協調性がない自分)に自信を持てなくなってしまうことがあります。

 

そんなお子さん対し、親御さんが認知行動療法を取り入れようとされるとき、本に書いているのを真似て

不安や恐怖とかの感情は自分とは異なるものとして捉えていいんだよ

…と言って、自分の中にある不安や恐怖を異物と捉えさせて、かつ『外在化』させたりします。

(外在化とは、自分のこころの内で起こっていることが外界で起こっていると感じたり、考えたりすることを指します)

たとえば、『不安を感じやすい』という問題に対し、不安という気持ちに「クヨクヨちゃん」などのあだ名をつけて、「そういうふうに不安を感じるのは自分自身じゃないんだ。クヨクヨちゃんがいるせいなんだ。」というふうに、自分が不安を感じているのではなく、自分のなかにクヨクヨちゃんがいるから仕方がないんだと思い込ませる方法です。

こうすれば、『不安を感じやすい自分=おかしいのかも』という考えにとらわれることがないよね…という理屈です。

 

クヨクヨちゃんをやっつけるために、心の中で『クヨクヨちゃんあっちいけ』って唱えてみて。心のバリアをイメージしてみて。あなたはできる。あなたには力があるんだよ

と親は子どもに働きかけ、子どもも「わかった!」と取り組もうとします。

 

子ども向け認知行動療法を実践したら状況が悪化…

しかし、前回のブログで説明したように、そもそも子どもが『不安で学校に行けない』状態の自分を問題と捉えたり、『不安がりな自分を変えていきたい』という動機付けはかなり難しいです。

 

大人が「このままではいけない」「学校に戻してあげなきゃ」「ひとりで行けるようにしてあげなきゃ」と思い、「あなたのためによくないから不安を取り除こう」と働きかけられると、子どもは「ママが言うならそうなんだ。不安は取り除かなきゃいけないんだ」と、よくわかっていないままに取り組もうとすることがほとんどです。

子どもは時に大人がびっくりするような思考をしていることもありますが、こういった点においては特に低学年~中学年くらいの子は「ママ(パパ)が言うのだからやったほうがいいんだろうな」と考えることが多く、『自らの意志で変わろうというより親のためにやってみよう』と思いがちなんです。

そして親が一生懸命認知行動療法を取り入れようとして子どもに働きかけ、子どもも「うん!やってみる!」と実践しようとしてくれると親は安心します。

 

でも、1日、2日はできても1週間、1ヶ月とは続かない。

なぜなら動機が弱いからです。

 

そんな子どもをみると、親は

なんて意志の弱い子なの
どうして?こんなにもやってるのに?

…と、子どもを否定したくなる気持ちが膨らんだり、なかなかうまく進まない現状に苛立ち、つい子どもを傷つけるようなことを言って家庭内がギスギスすることもあります。

その結果、親は子の行動ばかりみて、「できた」「できなかった」に注目し、できた時は大げさかな?と思うくらい過剰に褒め、できなかったときは子どもを責めてしまう…というループから抜け出せず、状況は良くなるどころか悪くなるばかり…。

子どもは「どうしたってクヨクヨちゃんがいなくならない!!!どうして!!!」とパニックになったり、結局は自分が弱いからなんだと思って自分を責めてしまったり…。

そしてそんな状況を作りだしてしまったご自身に自己嫌悪する親御さんは多いです。 「こんなはずじゃなかったのに」と 😐 

 

認知行動療法が子どもも親も前進すると思って取り組んだのに、いつしか目的と手段がすり替わって、結果しか見なくなってしまう。

本当は子どもに自信を持たせたいし、不安を感じやすい状況から抜け出してほしいという願いがあったのに、結果を求めすぎるがあまり、不安を感じやすい子どもに嫌悪感すら抱き、子どもも親自身も責めてしまいます。

そして私は、そんな状況でどうしようもなくなったというケースをたくさん見てきました。 親子の関わりによる子どもへの影響はとても大きいです。

その親子関係が悪化し、ギスギスしていてはさらに子どもの自信を失わせ、「不安になりやすい性格を変える」とか、復学どころではなくなってしまいます。

せっかく状況をよくしたいと思ってはじめたことなのに、こんな結果になってしまったらつらいですよね…。

 

よく見かける事例

ここからは、めちゃくちゃ多く見かけるケースをご紹介します。

 

子ども向け認知行動療法を試してみた

子どもが母子登校になり、認知行動療法を試みた。

「クヨクヨちゃんがやってきたら、それをはねのけよう」という取り組みを親子でされていました。

子どもは心の中でバリアをイメージします。 お母さんと離れるときに怖くなったら、心のバリアをイメージして、クヨクヨちゃんの登場を邪魔しようとします。

 

うまくいったら、お母さんは

できたね!えらかったよ!強いね!あなたは出来る子なのよ

と褒め、うまくいかなかったら、

クヨクヨちゃんのせいなんだから仕方ないよ!こころのバリアをイメージしたんでしょ?それだけでえらいよ!

 

しかし、このやりとりは

・不安が発生したら心のバリアを想像し、「不安を感じているのは自分のせいではない」と思いこませてお母さんと離れることへの不安を見ないようにして、お母さんと離れるという行動にうつせたとき、母親はすごいと褒める

 ・上記ができなかった時、「行動にうつせなくても想像して母親と離れようと試みようとしたことがえらい」と褒める

…というところまではよいとしても、

『上手くできない日があると、親はイライラしながら「昨日は心のバリアができたんでしょ?なんで今日はできないの!」と子どもに怒ってしまう』

『実践期間が長くなると、親に焦りや不安がうまれてしまい、なんでこんなにも長い間やっているのにあなたは変われないのと責めてしまう』

ということがあるので、これについては問題だと私は思っています。

 

なぜなら、親の子への関わりの一貫性がないからです。

「心のバリアを実践しても結果登校に結びつかないと親に褒められずに責められる」「心のバリアを実践しなくても親になんでやらないのと怒られ責められる」

…となりやすく、結果子どもは、『今日はママに褒められたいからがんばる』か、『今日はママに怒られてもいいからがんばりたくない』のどちらにするか選択をせまられることになります。

 

「心のバリア」がうまくいけば褒められて、ご機嫌になり、「わたしあしたも頑張れちゃうもんね~♪」なんて言ってさらにお母さんをよろこばせたりもするのですが、うまくいかなくても、『登校』が改善しないことにより、親の機嫌によっては「頑張ってるね」と褒められることもあるけれど、「心のバリアをしたのに何で学校に行けないわけ」と怒られることも増えてしまう。

自分がなんのために「クヨクヨちゃん退治」をしようとしているのかという目的もいつしか忘れてしまい、親も「こんなにもやってるのにまだ結果がでないのか」と焦りがでて、家庭内がギスギスしてしまう。

こういうケースは多いです。

 

トークンエコノミー法も併用

そしてさらに『クヨクヨちゃんを心のバリアで吹き飛ばせたらポイントをあげる』という方法も併用しているケースもよくお見掛けします。

他には『ママと笑顔でわかれられたら3p』『グズグズせず準備ができたら2p』『時間に間に合うように家を出発したら1p』

…というふうに、おそらく原型はトークンエコノミー法だと思いますが、何か目標を達成したらご褒美をあげるのではなく、いくつか『これができたらポイントをこれくらいあげます』という表を作って、ポイントをためることを行動のモチベーションにさせて、さらにポイントがたまればご褒美がもらえるというやり方です。

 

そしてポイント数によってもらえるご褒美が異なります。

20pで100円のお菓子1個とか、50pで○○に遊びに行ける…とか。

そして、『500たまれば1日理由なくお休みしてOK』というのもよく見かけます。大人でいう有休のようなものともいえますね。

 

しかし、これにも問題があると私は考えています。

たとえばこの1日お休みしていい権利をポイントをためてゲットした場合、その権利をつかう日が、その子にとって『不安が多い日』だったとしたら。

参観日にみんなの前で作文を発表すると前から決まっていて、それが嫌だから貯めたポイントを使い休む。 体育のテストが嫌だから貯めたポイントを使い休む。

たとえばこのように、「不安だ・嫌だ」と感じる日に「1日お休みしていい権利」を使うと、比較的不安をかんじにくい日の登校場面ではがんばれても、そうでない日に不安を乗り越える経験が結果として積みにくくなってしまいます。

その結果、本人にとって嫌だと感じる学校の授業やイベントをますます怖がり、避けようとしてしまって、余裕で飛び越えられるハードルだけをひたすら反復して飛ぶという状況が続いてしまう。状況が改善しないどころか、そんなことの繰り返しで親御さんもお子さんも疲れ切ってしまう…ということが多いです。

 

色々と取り入れた○○療法・心理学をあえていったん全部やめる

・認知行動療法とトークンエコノミー法のとりいれにより状況が複雑化して不安をさらに膨らませてしまっている

・コツコツ積み重ねているはずなのに前進しないことへのいらだちで親子関係がギスギスしていること

このようなケースでは、認知行動療法とトークンエコノミー法など色々と取り入れてこられたものをあえてやめてもらうことから手をつけることがほとんどです。

 

そして、子どもの行動や発言に対し、親が「この子はこう考えているに違いない」と『推測(判断)』することをやめるように心がけてもらい、「この子の発言が全てではなく、言葉にできないモヤモヤがあるはず」という前提でお子さんの話に耳を傾けてもらうようにもします。

そして、うまくお母さんと離れられても離れられなくても、変に、過剰に反応しないようにしてもらうことも多いです。

なぜなら登校は親のためではなく本人のためだからです。

 

・本人が「今日がんばれた!」とうれしそうにしていれば、その気持ちを親は子どもと分かち合うようにする

・逆にがんばれなかったと落ち込んでいたら、変に励まさずに寄り添うようにする

認知行動療法などをやめた代わりに取り入れてもらうのはたったこれだけ…ということもあります。

そして支援3ヶ月後にはお子さんがひとりで学校に行けるようになった…ということも珍しくありません。

 

まとめ

今回、2回に分けて子ども向け認知行動療法について解説をしてみました。

最後にご紹介したのはあくまでも一例ですし、認知行動療法が状況を大きく好転させてくれたというケースももちろんあるので、否定するつもりはありません。

私自身、認知行動療法を取り入れて支援をしている身でもありますし、実際の支援の場では認知行動療法のエッセンスを取り入れて親御さんにアドバイスをしていることも多いです。

しかし、今回ご紹介したように、認知行動療法にのみ頼るやり方ではうまくいかないケースもあることも事実です。

家庭教育を最重視する身としては、「子どもに不安などの感情をどうにか持たせないようにしよう」という関わりよりも、環境そのものを変えてしまったほうが手っ取り早く、かつ、その先に親子関係がよくなり、本当の意味でのお子さんの自信を身につけさせられるとも考えていますし、実際にそうなっていったケースを多く見てきています。

 

大事なのは、「○○テクニック」「○○療法」に頼って目的と手段が入れ替わらないことです。

本当は、不安を感じやすいわが子をどうにかしてあげたいと思って始めた認知行動療法なのに、いつしか認知行動療法を実践することが目的になっていたり、登校するしないということばかり見てしまって、子どもが親の思うように変わっていかないことにイライラして傷つけてしまう…これでは本末転倒です。

手段が目的に変わってしまうと、大切なものを見失って、親子関係にひびが入ってしまって、子どもは親に自分の心のうちを話せなくなってしまう…なんていうこともあるので、もし現在認知行動療法やトークンエコノミーなどの手法をネットや本や動画などで見かけて実践されているかたがいらっしゃいましたら、「何のためにこれをしていたんだっけ」と思い出してみていただくのもよいのかもしれません。

 

それでは、今回はこのへんで終わりたいとおもいます。

また次回のブログにてお会いしましょう 🙂

まいどん先生(公認心理師)

 

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