みなさんは、母子登校という言葉を知っていますか?
母子登校とは、お母さんやお父さんと一緒でないと子どもが登校出来ない状態のことを指します。
ケースによっては祖父母の付き添いで登校していることもあります。
多くの付き添い登校の事例の対象が母親であることをふまえ、このような家族の大人の付き添いがないと登校できない状態のこと。
<拙著:『これで解決!母子登校より』>
私が家庭教育支援の業界に飛び込んだ時、上記のような状態の呼び方は様々で、「付き添い登校」「母子同伴登校」と呼ばれることのほうが多かったです。
最近でこそ母子登校という言葉がわりとメジャーになってきているような印象を受けます。(MIKURU⊛MIRUでも、上記のような状況を「母子登校」と統一して表現します。)
家庭教育をみなさんに知っていただきたいという想いで、これまで様々な講演会の講師も務めてきましたが、教育委員会や学校や行政や講演会に参加してくださった方とお話をしていますと…
「母子登校の子がいるのですが、どう接していいかがわかりません」
「SC(スクールカウンセラー)やSSW(スクールソーシャルワーカー)に間に入ってもらっていますが、保護者の負担が大きく、でも本校としてもどうサポートできるかがわかりません」
「学校環境をどう整え、保護者のケアはどうすればいいかわからない」
「(保護者自身が)子どもとの関わりを変えてみたいと思うものの、世の中の情報が沢山ありすぎてもはやどれがうちに合うやり方なのかがわからない」
という意見が多く、皆さん悩みはあるけれども「母子登校そのものがどういうものなのかがわからない」ことが多いように感じます。
母子登校になる要因や原因やきっかけはご家庭の状況によって様々なので、「この部分を変えていけば必ず解決できるもの」と一概には言えませんが、この記事ではこれまでの支援経験をふまえて母子登校とは何かについて書かせていただきます。
👇この内容をより分かりやすくご理解いただけるよう動画でも解説しています
お母さんへの負担の度合いは子どもの不安度によって異なる
母子登校は、子どもがお母さん(保護者)が一緒に居ないと
・学校まで行くことができない
・教室に入ることができない
・給食を食べられない
・授業が受けられない
状態のことをいいます。
そして、母子登校といってもケースによっては保護者の付き添い方法や時間が異なります。
・校門まで付き添う
・下駄箱まで付き添う
・朝の会まで(授業が始まるまで)付き添う
・保護者が別室待機する
(子どもが「もう帰っていいよ」と言うまでor親子で決めた時間までor終日)
・保護者が教室の後ろで見守る
(子どもが「もう帰っていいよ」と言うまでor親子で決めた時間までor終日)
その他、学校に教室の後ろにパーテーションを用意してもらい
クラスメイトからは自分たち親子の姿が見えないようにして親子で一緒に授業を受けたり、遅刻早退をして参加できそうな授業を親子で受けたり、移動教室の時だけはみんなと授業を受けられるというようなケースもあります。
いずれにしても、お子さんが学校で1人(保護者が隣にいない状態)で過ごすことにどれだけ不安を感じているかによって、保護者の負担にはかなりの差があるということがわかります。
また、保護者自身の悩みとしては…
「子どもが学校を休みたいと言うならば今の時代尊重したいと思っているけれど、『学校には行きたい』と言っているのであれば助けてあげたい」
「学校に行きたいと言うわが子の支えになりたいのに、自分の時間を確保できないことで余裕がなくなって子どもに当たって自己嫌悪」
「仕事をやめなければならず、これまでの自分が大切にしていたものをひとつ失った喪失感がある」
「お父さんとは一緒に行きがたがないから自分ひとりで対応しなければならない。近くに祖父母もいないし限界」
という内容が多いです。
子どもを助けたいし乗り越えさせてあげたいのに、サポートする側の自分が限界…このような状態が続けば親子ともにしんどくなっていきます。
文科省の調査では母子登校の数はカウントされていない
母子登校の難しいところは、「学校には通えている」ため欠席扱いにはならないということです。
毎年文科省は、『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』というものを行っているのですが、そこで調査されているのは以下の8項目です。
・暴力行為
・いじめ
・ 出席停止
・ 小・中学校の長期欠席(不登校等)
・ 高等学校の長期欠席(不登校等)
・ 高等学校中途退学等
・ 自殺
・ 教育相談
<文科省:児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査 より>
学校外の機関等で相談・指導等を受け,指導要録上出席扱いとした児童生徒数 や、自宅におけるICT等を活用した学習活動を指導要録上出席扱いとした児童生徒数は調査で分かっているのですが、母子登校カウントされていません。
欠席扱いにはなっていないことで、学校現場でも不登校のほうが課題視されやすく「とりあえず別室用意しますね」「お子さんが安心するまでお母さんは付き添ってくださっていいですよ。お任せします」というような対症的な対応にならざるを得ないということが往々にしてあります。
また、中学年~高学年くらいになると「クラスメイトや先生から、母子登校をしている自分はどう見られているのか」ということが気になるようになり、お母さんが一緒であっても「本当は学校に行きたくても」学校に行けなくなってしまうというケースは珍しくありません。
幼稚園から小学校へ。環境の変化
母子登校についてご相談をいただいた際、必ず「幼稚園や保育園ではどうでしたか」とおうかがいします。
①幼稚園や保育園の頃に登園渋りがあったケース
②幼稚園や保育園には張り切って登園できていたケース
どちらのケースであっても母子登校に悩まれているご家庭がありますが、どちらかといえば①のほうが多い印象を受けます。
①幼稚園や保育園の頃に登園渋りがあったケース
「幼稚園や保育園のころは、どんなに子どもが門の前で大泣きしていても先生が間に入ってくださりお母さんと別れられた」とお話いただくことが多いです。
先生方は「子どもを楽しませるプロ」なので、「今日は○○ちゃんの大好きなお歌うたうよ~」「わあ、かっこいい靴だね!ほかのお友達にも見せに行こうよ!」など声をかけて子どもの気を「幼稚園や保育園に行きたくない」から違う「ワクワクすること」に上手に向けてくださいます。
その隙にお母さんは離れられていて、帰ってきたら「きょうようちえんたのしかったー!」とニコニコで帰宅していたというお話はよく耳にします。
しかし、小学校に上がれば幼稚園や保育園の先生のように間に入ってくださる存在がいないため、お子さん自身どうふんぎりをつけて教室に入って行けばいいかがわからず、お母さんと離れて学校で過ごすまでに時間が必要な場合があります。
②幼稚園や保育園には張り切って登園できていたケース
「幼稚園や保育園では毎日楽しく登園できていたし、むしろリーダーシップを発揮していた」というお話もよくお伺いします。
その場合、一概には言えませんが急な環境変化に戸惑いがあったり不適応を起こしている可能性があります。
幼稚園や保育園→小学校に上がると、お遊戯中心だったのが座学中心になり、時間割通りに行動することが求められ、担任に対する児童数の多さや、集団行動の多さや、自分で判断して動く場が増えます。
幼稚園や保育園の頃は先生が「つぎはお絵描きの時間だよ」とアナウンスしてくれていましたが、小学校に上がれば自分で時間割を確認して「次は算数だ」と判断して準備をすることが求められます。
こういった変化が母子登校の要因のひとつとなっています。
また、平成29年に改定された幼稚園教育要領では、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として幼児教育と小学校教育の接続やイメージの共有化について示されているものの、まだまだ幼稚園や保育園と小学校の接続においては課題があると言えるのかもしれません。
・健康な心と体
・協同性 ・社会生活の関わり ・自然との関わり、生命尊重 ・言葉による伝え合い ・自律心 ・道徳性、規範意識の芽生え ・思考力の芽生え ・数量や図形、標識や文字などへの関心や感覚 ・豊かな感性と表現 <幼稚園教育要領では、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」> |
自立が母子登校の要因のひとつである場合は家庭教育の実践がおススメ
ここからは、母子登校の要因のうち、お子さんの自立心が関係しているケースにむけて解説をいたします。(違う方は読み飛ばしてください)
母子登校の要因は不登校と同じく様々で、環境要因や性格傾向や特性などが関係していることもあり、一概に「自立心が関係している」とは言えません。
しかし、以下の項目に当てはまると感じる場合は家庭教育の実践により変化がみられるかもしれません。
例えば、「幼稚園年長の子が小学2年生の教室に入ったら」ということを想像してみてください。
クラスメイトと話が合わなかったり、授業内容が分からなかったり、みんなはできるのに自分だけできないから逃げたくなったり、クラスで浮いたり、休憩時間に楽しめない…
そんな毎日を過ごしていると、次第に「学校が怖い」「学校に行きたくない」「ママが居ないから不安」という気持ちになってしまうこともあります。
お母さんが学校に居てあげるなど、お子さんに合った環境を特別にこしらえてあげるのも選択肢のひとつではあるものの、それでは保護者への負担が強くなりすぎます。
また、ケースによっては周りの同年代の子ども達と自立度の差はどんどん広がっていくことが懸念されます。
母子登校は目先の対応としては有効なことがありますが、先を見据えた根本解決を目指す手法として、お子さんの自立心に課題がある場合は家庭教育の実践により年齢相応の自立心や生きる力をはぐくめるので取り入れてみてもいいかもしれません。
学校は楽しいことばかりではなく、緊張することや苦手なこともたくさんある場所です。
子どもたちにとって100%楽しいという場所ではありえません。苦手なことやそれに対して緊張することを学校で経験したり、乗り越えていくことで子どもは成長できます。
もちろん、今は多様な教育機会や選択肢がありますし学校が全てとは言いません。
ただ、母子登校は「親が積極的に母子登校をおすすめしたり無理に連れて行っている」というよりも「子どもがお母さんと一緒なら学校に行ける。学校には行きたい」と言ってはじまることが多いです。
いじめや学校環境に問題があるケースや生まれもっての発達に関わる課題があるケースではこの理屈だけでは結論づけられませんが、最終的にはお子さんがお母さん以外にクラスメイトや先生に頼りながら学校で過ごせる状況を目指すのがいいかもしれません。
家庭教育の実践においての理論などについては、「コンパスメソッド」に関する記事をご覧ください。
まとめ:親が甘やかしてこうなったわけではない
『これで解決!母子登校』の本が出た際、PHP研究所さまの記事がYahoo!ニュースで取り上げられたことがありました。
その時のコメントを見ていますと、「うちだけではなかったんだ」「母子登校って言うんですね」「本当につらい。もっと周りに分かってもらいたい」「母子登校は少数派で理解してくれる人が少ないのがつらい」という当事者のコメントがありました。
また、母子登校を知らない人や理解していない人からは、「親がリカちゃん人形みたいに扱うからこうなった」「親がいつまでも子どもを赤ちゃん扱いするからだ」「親が子離れしないといけない」なんていうコメントもあり、なんとも言えない気持ちになりました。
母子登校は、決して親が子を甘やかしまくってこうなったのではありません。
お子さんの性格や特性の関係もありますし、環境の問題もあります。
いじめでもなんでもそうなのですが、「知らないことへの批判」というのは怖いです。まずは周囲の理解が大切なのではないかと感じます。
母子登校に関する情報についてはこれが全てではありませんが、まずは初級編として「母子登校とはなにか」についてまとめさせていただきました。
この記事がどなたかのお役に立てれば幸いです。
親まなびアドバイザー まいどん先生